ファインダーの重要な役割の一つは構図の決定ですが、ピント合わせにも大きな役割を果たします。特にF1.4大口径レンズの場合は被写界深度が浅くなることもあり、要求されるピントの精度が高くなる傾向にあります。実際にはF4.0くらいであってもピントのピークがかなり狭いので、突き詰めるとかなり高い精度が要求されます。たとえばPlanar 1,4/50 ZFやDistagon 2/35でF4.0まで絞り込むと被写界深度が深くなるのは事実ですが、3600万画素のカメラで使っている場合はドットバイドット表示すると最良の描写になるピント位置は極めて狭いことに気づかされます。
OVFによるピント合わせは容易ではなく、撮影時にはピントが正しく合っていたと思っていても後で見てみると実はピントが微妙に合ってなかったということは誰しも経験することです。同時にMFレンズへの抵抗が増えてしまいます。幸いミラーレスが台頭して、そのEVFであれば実絞りで高精度なピント合わせができるので、この記事で述べるほどの問題は発生しません。またOVFを搭載したカメラでもほとんどの機種でライブビューによる精密なピント合わせが容易に可能になっています。良い時代です。そうは言ってもOVFで厳密なピント合わせができればこれほど楽しいことはないので、検討すべき要因を見ていきます。具体的には5つに大別できます。
- そもそもピント合わせに向いてないスクリーン
- スクリーンの位置がズレている
- 残存している球面収差で、絞り込むとピントが移動する場合
- 像面湾曲の影響で、画面の中央と周辺でピント位置が異なる場合
- ファインダースクリーンと絞り開放時の相性
それぞれ見て行きます。
スクリーンの特性
まずはスクリーンの特性がマニュアルフォーカスに向いていない場合があり、具体的には「暗いレンズ」でもファインダーが真っ黒にならないように、拡散が抑えられてる場合はピントが見づらいと言われているようです。たとえばキヤノンの標準タイプとSタイプで、前者は汎用の一方で後者はF2.8以下で特に大きな効果を発揮すると言っています。実際のレビューがこちら
https://dabesa.org/diary/diary_of_2006_01_26/
https://ezoman.exblog.jp/13496551/
https://photo.site-j.net/tubuyaki/vol252.htm
もちろん機種が違えばファインダー光学系も異なり使用感が異なりますし、メーカー標準で交換スクリーンを用意していない場合も多いです。どうしてもという場合はこちら
いろんな種類のがありますが、一部でレンズ、スクリーン、ファインダーの組み合わせが悪いものもあります。例えば焦点距離35 mm以上のレンズにK3改をD810の組み合わせはスクリーン周辺部が暗くなってピント合わせも不可能でした。
スクリーンの厳密な位置
さてスクリーンがMFに向いているものになっていれば精度が保証されるかというとそうではありません。もし
- 良い特性のスクリーンを導入した
- どんな条件でもピントが常に合わない
標準品から交換する場合、とくに社外品では微調整が必要になることがよくあります。これは改造品で厚みの精度が本来の基準値内から外れてしまう場合が考えられます。他の可能性は何でしょうか?標準品のスクリーンの拡散が小さくそこまで厳密なピント合わせができないため、同時に微細な位置のズレはあまり問題になりません。ファインダーはあくまで構図を決定するためのものとなります。AFがかなり良い仕事をしてくれるため、ファインダー上で厳密なピント位置の判定が不要ということも多いでしょう。ところがスクリーンの精度を(社外品で)無理矢理にでも上げようというユーザーは、往々にしてかなり厳密なピント合わせを必要としています。この要求に応えるには微調整が必要であるということのようです。
焦点移動
絞り開放で残存していて絞ると変化する球面収差も大きな問題となり得ます。マウントアダプターによる実絞り(手動絞り)を除くと、通常は絞り開放でピントを合わせることになります。レンズによって絞り開放での球面収差の残存量や、その絞り込んだときの変化は異なりますが、あまりにも程度が大きいと次のような事態を招きます。
- 良い特性のスクリーンを導入した
- 位置合わせをしたので絞り開放では画面中央でピントが来る
- なぜか絞ると思ったように画面中央のピントが来ない
端的な例はキヤノンのEF 50 mm F1.2Lの現象で、詳細はこちら
https://martinbaileyphotography.com/2009/08/12/canon-ef-50mm-f1-2-l-lens-dynamic-back-focus/
同様の事例
https://taomode.net/ef50mm-f12l-usm/#toc14
ただ実際は気にならないという声も
http://takumi-0331.hatenablog.com/entry/2017/12/03/224916
このレンズの場合はAFとの相性という論点ですが、MFでも同様の事象が発生します。たとえばDistagon 3,5/18やPlanar 1,4/50では2~3段ほど絞り込んだときに見かけのピークが移動します。程度問題ですし、必ずしも問題になるわけではありませんが、どの程度この焦点移動が発生するかは把握しておくと咄嗟の判断がより早く行えます。
像面湾曲
実際の原因は複数の要因が組み合わさっているかもしれませんが、少なくとも像面湾曲によって中央と周辺のピークがズレることがあります。これが顕在化すると次のような状態になります。
- 良い特性のスクリーンを導入した
- 位置合わせをしたので絞り開放では画面中央でピントが来る
- どんな絞り値でも画面中央ではピントが来る
- 画面中央は絞り値にかかわらず良好なのに周辺部は甘い
この現象が出ているときは像面湾曲を疑ってみましょう。同じ場面でピント位置をわざと少しだけ手前や奥に画面中央ではピントがギリギリ外れそうになるか僅かに外れるくらいにしてみて、周辺部の像が改善したかどうかチェックします。やや面倒なのはレンズによっては絞り値によって収差バランスが変化するためか、見かけの像面湾曲の程度が変化するレンズがあることです。
あくまで3600万画素のカメラで厳密にライブビューしてDistagon 2/35の無限遠付近の遠景で特性を観察した時の話です。絞り開放では画面全体で像面湾曲のようなものを感じることなくピーク位置がほぼフラットに見えます。2段ほど絞り込むと中央のピント位置が少し奥に逃げるように見えるので、それを補正するためにピントリングをやや手前に回して修正すると、中央は最良となりますが周辺部は前ピン状態のようになりました。最終的には中央の描写をほんの少し犠牲にしてあえてピントを少し奥に置くことで、周辺部とのバランスを取るようにしていますが、このあたりは好みにもよりますし、近距離での特性との兼ね合いもあるかもしれません。そもそも被写体を3 m以下に置く、有限距離の撮影ではまず問題にならない程度の話です。
それでももし画面周辺部での特性が、特定条件下で一定レベル中央に比べて常に描写が悪いようであれば、簡単にレンズに失望することなく像面湾曲を疑ってみるべきです。
ファインダースクリーンとレンズの相性
いよいよ最後の項目です。複数のレンズを併用する場合に問題となる内容です。
- 良い特性のスクリーンを導入した
- 位置合わせをしたので絞り開放では画面中央でピントが来る
- どんな絞り値でも画面中央ではピントが来る
- 絞り値にかかわらず画面中央と周辺の特性が把握できてる
- 新しいレンズを導入したら、そのレンズだけ精密なピント合わせ不可能
結論ですが、これは諦めるしかありません。条件はよく分かっていませんが、おそらく絞り開放での球面収差の残存量がやや異なるレンズ同士を組み合わせた場合に発生する問題のようです。スクリーンの拡散特性と球面収差の残存量の組み合わせによって、ファインダー上の見かけのピント位置が変わるようです。どのレンズを基準にするかを選択して、あとはそれにユーザーが合わせるしかありません。
まとめ
OVFでMFによる厳密なピント合わせを、A0とかそのくらい極端に大きく拡大して鑑賞できる精度で行おうと思ったらこのくらい苦労します。幸い撮影後の画像確認やライブビューでOVFの結果に対する微修正は行えるので、不可能ではありません。ただこれらの微修正を最大限に活用するとしても、各レンズの見かけのピントピークがどのように分布するかという特性(先に述べた中では焦点移動と像面湾曲の項目の部分)を頭にたたき込んでおく必要があります。決して楽ではありませんが、それに見合うだけの結果が付いてきます。
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