前回に引き続き、被写体側と像側のコントラストそれにMTFの関係について、今回は具体的に検証してみます。
(1)0.9, 0.94, 0.97のMTFは、被写体側が2絞りより大きなコントラストを持つときにようやく大きな差を見せつけます。(2)被写体側が1絞りより小さなコントラストを持つとき、ちょうと図で言うともっとも左側ではMTF が0.7や0.8またはそれ以上でも像側のコントラストの差違は目立たちません。(3)おおざっぱに言うとMTF = 0.7だと被写体側で6絞り以降は像側で2.4段近辺に収束、0.5で被写体側5絞り以降は像側1.6段付近に収束、0.2だと被写体側4絞り以降で像側0.58段付近に、それぞれ収束しています。いずれ被写体側がで大きな明暗差があっても、像側ではここまで大きな明暗差が出ません。
なんとなくMTFというと被写体側のコントラストを像側に何倍で投影するか(50%なら1:64→1:32で1:4→1:2)に思えますが、実は違うということです。
簡単な反証を2つ挙げます。まず被写体側でコントラスト比が1:2(被写体側で2段相当の明暗差)だとします。ここでMTF 50%のとき、もし間違った解釈が「正しい」とすれば像側で1:1になり、コントラストを完全に失うのですが、そんなことはありません(実際には被写体側で2段相当の1:2でレンズがMTF 0.5だと、像側では1:1.4で1段相当)。またMTFが25%だと像側で1:0.5(なんと明暗が逆転!)ということになりますが、もちろんそんなことはありません(実際には0.86段相当)。
閑話休題。フイルムのデータシートでは、しばしば解像力を示すのにコントラストが1:1.6と1:1000という2つの値が示されています。ここで前者は実用的な一方で、後者は現実的ではありません。前者は段数で言うと0.68段相当で、かなり低コントラストですが、後者は段数でいうと9.97段、ほぼ10段相当です。こんなコントラストを伝達できる光学系は存在せず、密着焼きでのみ計測できる程度の値です。言い換えるとレンズを通した上でフイルム面にできる像がこんな10段にも及ぶコントラストを維持できることはありません。画面の中で最も細かい部分の構造(明暗模様・パターン)は、とても高い空間周波数に対応しますが、この世に存在するレンズはどれも10絞り(≒1:1000)ほどのコントラストを生み出すことはできないということです(低い空間周波数でも難しそう)。実際に6ページの図に示されているとおり、MTFが97%という「極めて高いコントラスト比」である場合でも、被写体側で10段の明暗差は像側(フイルム面)で6段の明暗差となり、10段には遠く及びません。だからこそ非実用的というわけですが、言い換えるとこの1:1000を基準にフイルム像が持つ情報量を推し量ることはやや楽観的すぎ、実際にはそこまでの情報(像)を期待することはできないということです。
次回はMTFと解像力についての話です。