今回はModulation Transfer(訳すと「変調伝達」かな?)について
なぜMTFが必要かというと、実際の像は有限個の点光源の集合体というよりも無限の点光源の集合体だからです。前者は星景ですが、この場合は分布関数(PSF)で評価できますが、後者の場合無限の点光源の集合で構成される像なので、PSFはほとんど役立たずになるからです。いわゆる典型的な写真は後者なのですが、これに対しても、PSFのように像の品質(像の善し悪し)を表す客観的な指標が必要です。
そこで使われるのが輝度が正弦波のように分布している(連続的で徐々に明暗が繰り返している)パターンです。このパターンはPSFが如何であっても像が再び正弦波になる(パターンと像の間が単純な関係性になる)ため使われます。
補足ですが、正弦波チャートが「一般的な像の代表」として使われる理由は、一般的な像は無限個の点光源の集合として考えることができると同時に、無限個の正弦波の集合としても考えることができるためです。これはフーリエ級数展開をすればわかりますが、いかなる像(点光源を含む)も無限個の異なる振幅と異なる周波数の組み合わせによって表現することができます。このため像をPSFで代表するか、正弦波で代表するかの違いだけで本質は同じです。PSFでは複数の収差がそれぞれ顔をだすので、どのような収差がどのようなPSFを持つのか知っている必要があります。一方でMTFでは複数の収差の総和だけが出てくるのでどの種類の収差が原因になっているかを追求することは難しくなります。つまりPSFではしばしば「実際にはあまり影響のない要素」まですべて明らかになってしまいPSFが複雑すぎて評価することが難しくなり、MTFではしばしば「実際に影響がある要素」が結果に表れず単純すぎて評価することが難しくなる傾向があります。それでもPSFであれば絞りを変化させたり点光源の大きさと波長を変えたときにPSFがどのように変化するかを丹念に観測していくことで、MTFであれば周波数を10, 20, 40 lp/mmだけでなくもっと多種多様な空間周波数で白色光以外にも緑や橙など複数の単色光を計測することで、それぞれ十分に深い考察や分析が可能なはずです。
さて話を戻すと、正弦波チャートの方向とその周波数は像側でも変化しません。変化するのは唯一明暗の強度差です。この理由はPSFの応用で、明部の光が暗部に重なるために暗部の黒が浮いてしまうためです。
5ページにある図は正弦波パターンの断面図の一例です。1 mmあたり20サイクルなので1サイクルは50 um、赤と青の曲線はそれぞれ赤点と青点を点光源として考えたときの輝度分布の断面図です。青点で示された位置における理想的な輝度分布は実際には青い曲線のようになります。この青い曲線を見ると±25 umの位置、理想的な輝度分布では谷になっている(→真っ黒になっている)箇所にも多少の光が分布していることが見て取れます。同様にして赤点における点光源を仮定して計算される輝度の分布は、その輝度こそ小さいものの-25 umに近いため青点を基準にした点光源からの分布よりも実質的に強いものになります。
つまり暗い場所(-25 umなど「谷」になっている箇所)における像側での輝度の強度は隣接する空間から漏れてくる輝度の合計値になっています。結果として像側における(変調された)強度分布(imageで表記されてる○印の明暗差)は弱くなってしまいます。正弦波チャートの暗い部分は(先に述べたように)諸収差によって明るくなり、また明るい部分は暗くなります。
今回はここまで。次回はMTFが落ちてくると何が起きるのか、複数の被写体側強度にたいする像側の強度という観点から解説していく箇所です。
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