2017年5月9日火曜日

センサーサイズと画角と焦点距離とF値のお話

同じレンズでも、ボディのセンサーサイズが変われば画角が変わることは広く知られていて、この画角の変化をわかりやすくするために「換算焦点距離」が指標として使われることがあります。このとき焦点距離は換算してF値はそのままということがあります。たとえば4/3のレンズにオリンパスのZD 300/2.8がありますが、これを35 mm判に換算したとき「600/2.8」と表現するものです。この表現の是非について検討します。被写界深度という観点から考えてみましょう。被写界深度はピントが合っているように見える範囲で、絞るほど被写界深度が深くなります。

被写界深度を決める値は焦点距離とF値と撮影距離、それに許容錯乱円です。短い焦点距離、大きなF値、遠い撮影距離と大きな許容錯乱円で被写界深度が大きく、深くなります。今回は撮影距離が一定の条件を検討します。また許容錯乱円の半径は同一人物が観測する同一の画像であれば、像の拡大率に比例するとします。

まず像の拡大率が一定の場合の被写界深度を検討します。撮影した画像をあるモニタでドットバイドット表示するとき、画素ピッチが一定ならば撮像素子上の像をモニター上で何倍に拡大するかが一定です。このためセンサーサイズにかかわらず許容錯乱円の半径が一定なので、被写界深度は変わらず、F値を換算する必要もありません。このことは次の実験で簡単に確かめられます。ある画像をドットバイドット表示してる状態でトリミングを行い、トリミングの前後で被写界深度を見てください。当然かもしれませんがドットバイドット表示したときは何の変化もありません。

次に像の拡大率が一定という条件の妥当性、言い換えると「像の拡大率がセンサーサイズにかかわらず一定である」という条件が妥当かどうかを、モニタ表示とプリント評価という2つの例で検討します。あるモニタ上で画像をドットバイドット表示する条件では、小サイズフォーマットほど像の拡大率が大きくなる傾向があります。これは小サイズフォーマットほど画素ピッチが小さいからです。2017年5月現在では、35 mm判が2000から5000万画素の一方でm4/3は1200万画素から2000万画素程度です。35 mm判よりもm4/3が面積あたりの画素が多く、画素ピッチは小さいです。このため、あるモニター上でドットバイドット表示したとき、小フォーマットほど像の拡大率が大きくなる傾向があります。プリントではどうでしょうか。像の拡大率が一定になるよう、35 mm判で撮ったものはA2に、m4/3で撮ったものはA4に、プリントする人は稀です。むしろセンサーサイズに関係なくA4に出力することがほとんどです。撮像素子の面積と印刷面積の比率を考えると、小サイズフォーマットほど大きく拡大されます。いずれも像の拡大率は一定ではありません。

それでは拡大率が可変になる条件の中で、最終的な出力サイズが同じときに被写界深度がどうなるか検討してみます。一例として35 mm判で200 mmのF4.0で撮ったとき画角と被写界深度を、m4/3で得るにはどうすれば良いか考えてみます(計算サイト)。まず画角を揃えると、m4/3で使うレンズの焦点距離が100 mmになります。ここでF4.0のままだと焦点距離が半分になったため被写界深度も深くなり、計算すると4倍になります。ただし出力が同じ大きさで、35 mm判の拡大率に対してm4/3の拡大率は2倍なので、35 mm判の許容錯乱円の半径に対してm4/3の許容錯乱円の半径が半分になります。このため35 mm判で200/4.0の被写界深度に対してm4/3の100/4.0の被写界深度は、4倍の半分で2倍に相当します。この2倍になっている被写界深度を揃えようとすると、F値を小さくしなければなりません。具体的にはF4.0を拡大率の比率である2で割ってF2.0になります。センサーサイズが変わったときに画角も被写界深度も変えたくない場合は、焦点距離もF値も同時に変えなければなりません。35 mm判で200/4に相当する画角と被写界深度をm4/3で得たければ(100/4.0ではなく)100/2.0が必要です。以上のことから、画角の変化を換算焦点距離で表す場合はF値も換算して表記するほうがより現実に即していると考えられます。

F値の換算は一つずつ手順を踏めば求められますが、もっと簡単に求める方法があります。まずレンズの焦点距離、口径そして口径比を考えます。焦点距離が200 mmで、口径比であるF値が4.0ならば口径は50 mmです。この200/4が35 mm判だったとき、m4/3で同じ画角にしたければ必要となる焦点距離が100 mmになります。 ここで被写界深度も同じにしたければ口径をそのままに口径比を求めます。具体的には焦点距離が100 mmで口径が50 mmだから口径比はF2.0です。

本来は焦点距離も口径も物理量であり、すなわちこの比率から計算される口径比もセンサーサイズにかかわらず一定のものです。200 mmのF4.0は100 mmのF2.0とは別のものです。ただどうしても簡便のため焦点距離を換算したいということであれば、同時にF値も換算するべきです。冒頭の、4/3で300/2.8のレンズを35 mm判相当で表現したければ「換算すると600/5.6」とするのが適切と言えるでしょう。

このあたりの話、センサーの感度とかも含めて英語でよくまとめられているページがありました。

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