ふと中判デジタルに関連する記事を読んで、同意する点が多く、何となく書きたくなってしまいました。GFX 50sが出る直前だし、ちょうどハッセルのX1Dも出荷されてるって話題になってたし。
関連する記事は以下です。
“中判デジタルカメラを好き勝手に考えてみる その1”
http://bigdaddyphoto.blog41.fc2.com/blog-entry-1649.html
“中判デジタルカメラを好き勝手に考えてみる その2”
http://bigdaddyphoto.blog41.fc2.com/blog-entry-1650.html
同意する点が多いのは2015年に導入した645Dと、その前後に併用している「135フルサイズ相当機」の5D Mark II(あとその後導入したD800やD810A)との比較で実感していることと、記事中で述べられていることの両者で、感覚的に近いものがあるということです。ここではボケと画素数について、これらの機材の使用感を踏まえた感想を書いてみます。
645Dはペンタックスの67レンズ(55/4の最終型、105/2.4、165/2.8に加えてM*300など)とFA 645 200/4を、135フルサイズ相当機はVoigtländerのNOKTON 58/1.4やCarl Zeissのレンズに加え、ペンタックスの中判レンズ(先述の67レンズとFA 645 200/4)を付けています。
まず645Dだからって「特別にピントが薄い」ということはありません。厳密に比較したことはありませんが、少なくとも645Dが他のボディに比べて極端にピントに厳しいカメラであると感じたことはありません。これはもしかしたら同じレンズで比較したときに645Dと5D2のピクセルピッチが割と近い(645Dが6.0 μmで5D2が6.4 μm)ため、奥行き方向の許容量がほぼ等しくなり、ドットバイドット表示したときに差がほとんどないというだけかもしれません。あるいは645DとD800(またはD810A)で画素数がかなり近い(645Dが4000万画素でD800/D810Aは3600万画素)ため、画面の中心と周辺の差(像面湾曲など・ただしこの差と像高が線形な関係に近似できるものとする)が似たような具合になって、全体で見たときに中心と周辺の差が似たようなものに感じている可能性もあります。ただし後者の場合はドットバイドット表示したときの拡大率が違うので、奥行き方向の許容量(許容錯乱円の直径)は違うはずです。とはいえ人の感覚なんて思ったほど当てにならないということは留意すべきでしょう。
ともかくこの「どっちも大差ない」という感覚を数字で確かめられないか検討してみます。焦点距離の換算はしばしば見られ、画角を一致させるための数字の操作ですから妥当なものだと考えます。このとき換算は対角線長で行うので、135フルサイズ43.2 mmに対して44x33は対角55 mmです。後者はちょうど3:4:5の関係なので計算が楽ですね?このとき比率は43.2:55≒1.27です。たとえば645Dで55 mmは「135フルサイズ換算」で 55/1.27≒43.3 mm相当となります。口径が約19.6 mm(←55/2.8)なので、F値も「換算」してみると43.3/19.6で約2.2となり、先のページに示されていた2/3段という計算と一致しています。数字のいじり方は違いますが、基本的アプローチは「面積比から一辺の比率を求めてF値を焦点距離に合わせて換算する」なので同一(のはず)です。やはり645Dをはじめとする44x33 mmセンサーを有するボディだと、いわゆる「135フルサイズ」と1段も違わないということになります。
この2/3段が有効なのは、鑑賞する際のサイズが同一である(拡大率が違う)ことが条件です。ただし拡大率を揃えていて、プリントのサイズが異なっている場合でも、人は全体の大きさを考慮に入れて鑑賞する可能性があるのでこの差が絶対に無視されるとは限りません。言い換えると、拡大率を揃えた鑑賞で、プリント(媒体)のサイズが同一でなくても、両者の差知覚されるかもしれません。そうは言っても、あるレンズで撮影した67のポジの中心部24x36 mmをトリミングしてあるサイズにプリントしたら、そのレンズをアダプタを使って装着した135フルサイズのカメラで撮ったポジ(24x36 mm)を同サイズにプリントしたものと一致するで、この場合にはx段相当の違い(67と135フルサイズならxは約2.0)は観測できないはずです。理論的には両者は一致するはずですが、実際には厳密にミラーボックス等でのボケのケラレの可能性を考慮すると100%一致することを保証はできないことに留意してください。とはいえこのミラーボックス等によるボケのケラレは結果に大きな影響を与えるとは思えません。
話を戻します。以上のように、理論的には645Dとフルサイズを同じ大きさに表示または印刷して鑑賞するなら2/3段の差が見えることが予想されます。ここで実際の比較で感じたことを再検討してみましょう。645Dと5D2をドットバイドットで比較した場合、後者は前者のトリミングと近似できるので2/3段の差が関係なく、両者の差が見られないのは納得できます。645DとD810Aで、同じ大きさに縮小(または拡大)したときは2/3差を感じてもいいはずですが、特に感じていません。先に触れたように、もし像高に比例するような像面湾曲ある場合、ちょうど「像高は低いが拡大してるVS像高は高いが拡大率が低い」という条件になって両者が拮抗しているように感じるのかもしれません。現実的にあり得ることは、おそらく2/3段という差は知覚するには十分ではないということです。少なくとも1段くらい違わないと、いろんな条件で明確に「違うね!」ってなりづらいという可能性が高いように思います。そうするとどうやらボケが135フルサイズより大きくはないです。というより135フルサイズもよくボケます。
それでは余所でなぜ中判だとピントが薄い(F2.0ならF1.0相当)と言われるのか検討します。まず大きな要因はフイルム時代に中判と言えば、最低でも645だったことでしょう。645は対角線長が約70 mm(69.7 mm)で135の43.2 mmに対し1.6倍程度あります。ちょうどキヤノンのAPS-Cと135フルサイズくらいの違いがあります。このためF値の換算も1.6で、F2.8がF1.8相当に、F2.0がF1.2相当にそれぞれなります。ちょうど1と1/3段ほどの違いですので、これだけ違えばさすがに「同じF2.8でも雲泥の差だ」という認識があったのではないでしょうか。さらに67になれば、対角線長が135フルサイズに対しておよそ2倍あります。こうなるとF2.8はF1.4に化けるのでますます顕著な差が出てきます。
この数字のマジックだけでも大きな差がありますが、67の90/2.8や105/2.4さらに165/2.8を使ってみて感じたことがあります。それは絞り開放にしたときのピントの立ち上がりとピント面における描写です。上記の3本のレンズしか試していませんので他のレンズのことは詳しく分かりませんが、これら3本のレンズは絞り開放でも、とてもすっきりした描写です。ピントの立ち上がりも明瞭で、ある点を境に明確にピントが合ってる箇所とボケてる箇所が見分けられます。典型的な135フルサイズ向けのレンズでF1.2やF1.4クラスとなると、絞り開放はフレアがかった描写でピントの立ち上がりも何となく分かりづらい印象があります。2段くらい絞り込むことでピント面の描写が落ち着き、またピントの立ち上がりもわかりやすくなるような印象があります。具体的にはVoigtländerのNokton 58/1.4とかCarl ZeissのPlanar 85/1.4などの持つ描写です。これらのレンズで見られる絞り開放における甘い描写は、味としてうまく被写体の良さを引き出す材料になりますし、肯定的に見ています。しかしそれとは別に、絞り開放から甘さと皆無でよくキレるレンズが中判レンズに存在することも事実です。これらのレンズを絞り開放で使うと、135フルサイズ換算ではF1.2相当(67の105/2.4)だったりF1.4相当(67の90/2.8とか165.2.8)になるのですが、ピント面がすっきりしているために、余計に被写界深度を浅く認識するのではないかと思います。ただし収差と人の知覚の関連は詳しくないので、実際にこのようなことが起きているかは分かりません。それでも67のレンズによっては換算して考えると「135フルサイズで言うとF1.2とかF1.4のレンズなのに絞り開放からキレっきれ」ということになります。135フルサイズ向けでF1.4なのに開放からキレっきれというとOtusとかシグマのARTシリーズがありますが、まさにこれらは67レンズのF2.8と比肩する描写を提供しているのではないかと思います。つまりこのようなレンズを使えば、中判の特権と言われてきた描写が135フルサイズで実現できる可能性が高いです。実際にOtusは“中判カメラを連想させる画質”と謳っていて、上記の考察を踏まえると合点がいきます。まとめると、中判が大きなボケというのは、同じF値で大きくボケることと、さらに絞り開放付近における描写の特性が関連しているのではないかと考えられます。そして同時に135フルサイズでもレンズによっては似たような特性を持つことがあるようです。言い換えると中判だからボケる、135はそれに劣るということは、特に135フルサイズ対応のレンズの進化によって必ずしも成り立たなくなってきたと言えるようです。
ここまでの流れでは135フルサイズもボケるということに重点を置いてきました。次に画素数について検討してみます。画素数の増え方は近年若干伸び悩んでいるようですが、それでも135フルサイズなら5,000万画素の機種まで出ています。44x33も現行品はだいたい5,000万画素程度のようで、数字だけ見れば拮抗しているのですが、そもそもこの5,000万画素が生きる場面はあるのでしょうか。前提として多ければ多いほどよいという考えがあるのは事実です。レンズで集光された像というアナログ信号をサンプリングしているという観点からは、全体でのS/Nが下がらない限りサンプリング点は多い方が良いです。配線幅がノンゼロである以上、各画素がある面積を下回ってしまうと、画素に占める配線の割合が増えるので、S/Nが下がることが予想されます。ただし裏面照射方式であればこの問題は解決できそうです(実際の製品で問題が解決できるかはともかく)。実際の製品ではS/N以外にも製造上の課題があるでしょうし、そもそも記録メディアの容量が有限なのでユーザーからしてもサンプリング点が増えれば良いということにはなりません。とはいえ、条件が許すならサンプリング点は増やしたいところです。サンプリング点が多い画像(多画素の画像)の持っている情報の一部を捨てることはたやすく、たとえば4,000万画素の画像から1,000万画素に縮小することは容易です。さらに信号処理を行ってノイズ除去する際にも元の情報が多い方が良好な結果が得られるのではないかと思います。
また技術革新により全体のS/Nを維持するのではなく、画素単位でのS/Nが維持できるのであれば多画素化することはますます歓迎されるでしょう。画素単位でのS/Nが維持できるということは、レンズの性能が十分であれば、ドットバイドット表示したときの品質が変わらないということです。これは、同じ世代のセンサーで画素ピッチ一定のままセンサーサイズが違う(6.0 μm四方の画素を持つAPS-Cと135フルサイズなど)場合にも発生しうる状況です。
いずれもS/Nが悪化しないなら多画素化することに意義があるのですが、過去にいくつか試した事例を元に、大きく印刷するならどのくらいの画素数が必要か感じたことをまとめます。(1)APS-Cの600万画素で撮影した画像を9枚のA4(3x3)にポスター印刷(A4の8倍がA1だからA1よりちょっと大きいくらい)したとき、9枚の1枚をA4に印刷された写真として見た場合はいうまでもなく、画素の不足を痛感しました。ジャギーがはっきり見えることが問題でした。しかし実際に9枚を貼り合わせてみると、この「9枚貼り合わせの状態で1枚」として見るので、ジャギーはそこまで目立ちません。とはいえちょっと注意するとジャギーに気づくレベルです。(2)APS-Hの800万画素で撮影した画像をA3ノビに印刷したとき、これは満足いく印刷が得られました。(3)135フルサイズの2,000万画素で撮影した画像をA0相当に印刷したとき、気をつけてよく見てみるとジャギーの存在に気づきますが、(1)とは大きく違う余裕のある印刷に見えました。これら3つの例から今なんとなく持っている印象は次の通りです。A3ノビくらいまでしか印刷しないなら1,000万画素くらいあれば良さそうです。もちろんセンサーサイズや使うレンズで同じ1,000万画素でも結果は大きく異なりますが、おそらくAPS-Cやマイクロフォーサーズでも十分です。大きく引き延ばす場合でも、出力が大きいほど遠くから鑑賞するのでだいたい2,000万画素くらいあれば良さそうです。マイクロフォーサーズでも問題ないのではないでしょうか。ただしいずれもトリミングしないという前提です。トリミングは言い出すとキリがないのですが、トリミングの有無にかかわらず「A3ノビまでなら1,000万画素、それ以上でも2,000万画素」あればいいような気がします。
はたして44x33の「中判デジタル」に優位性はないのでしょうか。必ずしもそうとは言えないように思います。条件次第では優位になる部分もあるでしょう。たとえばレンズが持つ余裕です。特にペンタックス645マウントのレンズはそのほとんどが645フイルムをカバーするようなイメージサークルを有します。645フイルムと645D/Zの対角線長を比較すると69.7 mm対55 mmで比率にすると1.27倍程度、135フルサイズに対してAPS-Hくらいです(同時に44x33と135フルサイズの比率でもある)。そうすると仮にあるレンズが645フイルムに最適化されて、つまり645フイルムで撮影したときにフイルムの端っこでは描写に余裕がないとします。そのときにこのレンズを44x33で使うとイメージサークルの大きさの余裕が出てくる場合があります。たとえば周辺光量不足であったり、画面の最周辺部で発生する収差などは44x33では比較的目立たなくなります。一方で135フルサイズで135フルサイズ向けのレンズを使うと四隅で僅かに描写が劣化してしまうことがあります。このようなときには44x33が撮像素子の面積の差以上に安定した良好な描写を得られる可能性が高くなります。
135レンズを使っていて感じたことが、周辺光量落ちしてるレンズでは周辺部でのボケの量も小さくなることです。同時にもし点光源があればボケの形状が円からレモンやラグビーボールのように変形してしまいます。周辺光量落ちそのものが悪ということではありませんし、映像効果として巧みに利用することは可能ですが、ボケの量に関して言えばマイナスに作用するようです。このとき周辺光量に余裕のあるレンズを44x33で使うと、周辺部でのボケの量の違いによって、公称F値の差違(2/3段)以上の差を感じる機会があるかもしれません。ただしこれは645フイルムをカバーするイメージサークルを有するレンズでより頻繁に発生するような現象なので、44x33に最適化されたレンズで似たような現象が発生するかはケースバイケース(レンズによる)ということになると思います。
次にレンズの差違がないものとしたとき、44x33は135フルサイズに対して優位性がないか検討します。まずは画面の面積が大きいことから、S/Nそのものは44x33のほうが有利であると考えられます。出力サイズが最終的に同じであれば、拡大率が低くなるだけ大型センサーは余裕が出て有利と考えられます。ちょうど67と135を四つ切りにしたときに観測される差違と同類です。しかしセンサーの世代差があるので、645DがD810Aに対していつもかならず有利だとは言い切れないように思います。これは実際に両者を同じ条件で比較した場合、特にISO 800相当以上においてはD810Aのほうが良好な像を出すような印象があります。逆に言うと近い世代では44x33と135フルサイズの違いはやはりあるのではないかと思っています。あいにく直接比較したことがないので真相は分かりませんが、645Zの出す絵はやはり同世代の135フルサイズセンサーよりも高感度側の耐性がややあるように思えます。
このように、たしかに存在するが顕著でない44x33と135フルサイズの違いですが、対角線で1.4倍ほど、ちょうど1段相当分の差があればいろんな場面でわかりやすい差が出てくるのではないかと思います。対角線が1.4倍ということは面積でちょうど2倍の36x48あたりになってきます。しかし半導体の価格は面積に依存していますので、たとえば現状の主流である33x44に対しては「たった」+3 mmと+4 mmですが面積では1.2倍ほど、価格はそれ以上に上昇してしまいます。33x44を上回るセンサーは現状だとPhase ONEやLeafしか出していないところを見ると、価格の観点から一部のユーザーを除いて売れないというマーケティングの判断なのでしょう。
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